ストーリー

あなたは夢はありますか?

それに向かって、あなたは努力しているでしょう。
希望を持って進んでいっているのでしょう。

けれどそれは、絶対に叶う事ではないのです。
それが、夢というものなのです。

だからと言って、悲観したりしてはいけませんよ。
なぜならそれは
並ぶ世界のどこかで、もう一人のあなたが叶えているのですから。

それは、とてもとても残酷な事ですわ。

第123季 神無月

幻想郷の東の端、博麗神社。
大結界の境界線上にある、外の世界と幻想郷との境界。

この日、博麗神社で祭りが開かれる事になっていた。
日が落ち始め、夕陽が紅葉の山をさらに紅く染める頃、
人々も妖怪も神社に集い、始まりを告げようとしていた。

どうして夢は叶わないものなのだろう。
どうして想いは届かないものなのだろう。

私は貴方、貴方も私。
二人は一人で、一人は二人。
二つの世界は、一つの世界。

可能性が可能性であるのならば、
私と貴方はなぜ、貴方と私ではなく私と貴方なのだろうか。
全く別の存在であったならば……。

どうして可能性は、結果に収束してしまうのだろう。

射命丸文もその日、祭りへ向かおうとしていたが、
文々。新聞の編集作業に手間取っていた。
発行予定の日が近いので、ある程度の所まで終わらせたかった。
祭りとはいえ、新聞の発行は休むわけにはいかない。

一通り作業も終わった頃、外から聞きなれた声が聞こえた。

「おーい。早く行かないと、酒もつまみも無くなっちゃうよー。」

声の主は馴染みの河童、河城にとりだろう。
文は返事をすると、手早く身支度を済ませ外に出た。

私は春、そこで目覚めた。
目の前に広がるのは、望んでいた世界。

きっかけはその世界の源、神と依り代を繋ぐもの。
そして二つの世界をつなぐもの。
引き寄せられた可能性から全ては始まった。

世界が歪んでいくのが分かった。
世界が捩れていくのが分かった。
世界が霞んでいくのが分かった。

博麗神社に着くと、既に馴染みの者達は宴を始めていた。
二人もすぐにその環の中に引き込まれ、共に祭りを楽しんだ。

ある者は笑い、ある者は歌い、ある者は酒を煽る、
そして疲れ果てると眠りにつき、また新しい日が繰り返される。
それは日常、永遠に繰り返され、これからも続く日常。

そのはずだった。
そうでありたかった。

追い詰められた賢者の選択は、全てを理解していたからこその選択だった。

境は消えた。もう遮るものは何もない。
それでも、すぐに大きな変化は起こらなかった。
それは私達、そして遮るものが自我を持っていたから。

世界は破壊と再生を繰り返しながら、新しい姿に近づいていく。
入るたびに変化する地形は、その証左だった。

偽りの異変は解決されたように見せかけられ、
少しずつ、着実に世界は蝕まれていた。

夜も更けて秋の夜風が冷たくなってきた頃、まだ宴は続いていたが、
文は少し喧騒から離れ、酔い醒ましも兼ねて近くの森を散歩していた。
何かに引き込まれるように、自然と足がそこへ向かっていた。

――世界が崩れた。
目の前の夜空に大きくヒビが入り、反転する視界。
破れ、剥がれ落ちていくと空のその奥に、見えたものは……。
それを認識する前に、文は意識を失った。

結び付いた二つの世界は、徐々に現実に作用を始める。
そして、特異点。

全てが反転し、混ざり合う可能性の螺旋。

私は貴方に。貴方は私に。
こちらはそちら。そちらはこちら。

抗えないセオリーがあるとするならば、
変えられないエフェクトがあるとするならば。

そのゲームのルールを破壊する。

何も無い空間。
揺れ動く数式。

世界を演算する関数が次々に生み出す、無数の相対状態。
0と1が織り成す共鳴により創られる物語。

今ここに、世界は超越された。